JAPAN EQ AWARD 2026 受賞者一覧 / 上野村立上野中学校
グランプリJAPAN EQ AWARD 2026 団体部門
上野村立上野中学校
中学校におけるEQを活用した人間性教育の取組み
群馬県の山あいにある上野村立上野中学校は、全校生徒25人。この学校では、毎時間の授業の終わりに、生徒たちがタブレットで「いま感じている気持ち」を記録しています。かかる時間は30秒ほど。学期の始めと終わりにはJapanEQ検査を受け、自分で目標を立てて日々の行動につなげます。
「心」を学校全体の言葉にしたこの取り組みは、なぜ始まり、生徒と先生に何をもたらしたのか。今井啓介校長の言葉とともに紹介します。
自分の気持ちを、
目に見える形に
したことはなかった中学三年生の生徒
- 全校生徒
- 25人
- JapanEQ検査
- 年6回
- 毎授業後の感情記録
- 約30秒
- 1学期の感情記録
- 2,883件
自分の感情に気づくことから、相手、そしてチームや社会へ。1年かけて、視点を少しずつ広げていきます。
なぜ、心に目を向けたのか
群馬県上野村は、人口約1,000人の小さな村です。村でただ一つの中学校である上野中学校は、全国から山村留学生も受け入れています。学校教育目標は「わくわく チャレンジ つながる みらいへ」。「自律」「共生」「創造」をキーワードに、学校・家庭・地域が一体となって人間性教育に力を注いできました。
今井校長は、教頭として2年間勤めたのち、校長として再びこの学校に赴任し、今年で3年目を迎えます。
子どもたちも、地域も、保護者も協力的で、本当にいい学校です。みんなで協力するという点では、どこにでも誇れる学校だと思っています。
今井啓介 校長
その一方で、一人ひとりに目を向けると、自分に自信を持ちきれずにいる生徒の姿もありました。
学校の課題は多様化していて、その多くは子どもそれぞれの心の中に起因する何かがあるのではないかと感じていました。もう少し子どもが生きやすく、自分にしっかり向き合い、自信を持って大人になってもらえないものか。
今井啓介 校長
校長は前年から、生徒に心に目を向ける話をするようになりました。ほかにできることはないかと探すなかで出会ったのが、JapanEQです。
背景にはもう一つ、令和9年度(2027年度)に開かれる全国へき地教育研究大会(群馬大会)での発表がありました。上野中学校の特色ある教育が、生徒の人間性にどんな効果をもたらしているのか。それを研究的な見地から可視化し、確かめたいと考えていたのです。
「自分 → 相手 → チーム・社会」の1年間
設計の特徴は、感情知性を育てる範囲を、1年かけて段階的に広げていく点にあります。学期ごとにテーマを変えながら、JapanEQ検査と感情記録「EQ NOTE」の二つを、年間を通じて使い続けます。
- 1学期 実施済み心内知性
自分の感情に気づき、向き合う
- 2学期 実施中対人知性
相手を理解し、関わる
- 3学期 これから社会知性
チームや社会の中で行動する
JapanEQ検査 ── 学期の始めと終わりに、年6回
検査は朝の会の時間に行います。結果を受け取ったら全員が自分で振り返り、次の目標を立てて、日々の行動につなげます。
- 検査
- 振り返り
- 目標設定
- 日々の行動
EQ NOTE ── 毎授業後、約30秒の感情記録
授業の終わりに、全生徒がタブレットで、その授業中に最も強く感じた感情と、きっかけになった出来事を記録します。画面には、エネルギーの高さと気分の快・不快で並べた100の感情の言葉があり、いちばん近いものをタップします。
記録は二つの方向で使われています。
- 生徒にとって自分がどんな学びで心が動いているのかに気づく材料
- 先生にとってどんな授業やテーマが生徒の心を動かしているのかを振り返る材料
集まった記録からは、生徒一人ひとりの感情の傾向と、教科ごとの傾向を分析しています。授業だけでなく学校行事の振り返りにも使われ、生活づくり、授業づくり、行事づくりと、学校生活の全体にEQが組み込まれつつあります。

続けられる仕組みにするために
毎授業の記録と年6回の検査を、全校で無理なく続けるために、上野中学校では三つのことを大切にしてきました。
「成績」ではなく
「自己成長の見える化」
EQのスコアは成績ではなく、自分の成長を見えるようにするためのもの。生徒にはそう説明し、回答に正解・不正解はないと伝えました。ありのままの自分を、安心して記録できるようにするためです。
マイナスの感情が出ても、それは決して悪いことではなく、人間とはそういうものだ。どんなところを自分で工夫すると、より自信を持っていけるのか。そこに目を向けるには、自分の心としっかり向き合うことが大事です。
今井啓介 校長
負担を
できるだけ小さく
JapanEQ検査は約15分、EQ NOTEは約30秒で終わるようにしました。毎日の授業の流れを止めずに続けられることを優先しています。
始めたばかりの頃は、記録に2分ほどかかっていたといいます。続けるうちに生徒は慣れ、いまでは30秒ほどで書き終えるようになりました。
まず先生たちが
理解する
生徒に展開する前に教職員向けのワークショップを開き、先生たち自身がEQを正しく理解することから始めました。ジャパンラーニングの講師が何度も学校を訪れ、生徒へのガイダンスも行っています。
生徒と先生に起きたこと
取り組みはまだ1学期を終えたばかりです。それでも、生徒の言葉にも、先生たちの実感にも、変化が表れ始めています。
「先生、これ面白いですね」
授業の様子を写真に撮りに行った今井校長に、中学3年生の生徒が声をかけてきました。
面倒なことをさせられていると思っているのかなと予想していたので、「なんで?」と聞いたんです。すると嘘のない表情で、「自分の気持ちをこういうふうに目に見える形にすることは、今までなかった」と。
今井啓介 校長
その生徒からは、さらにリクエストも届きました。授業ごとに記入したものを、あとで「あのときどんな気持ちだったのかな」と振り返れる仕組みを作ってほしい、というものです。
やらされる記録ではなく、自分のための記録として受け止められている。授業や行事の振り返りにも、より詳しく、自分の心に落とし込んだ感想が増えてきました。
先生たちの実感
1学期の終わりには、先生たちが感じた変化を出し合い、全員で共有しました。
- 「心」が学校全体のキーワードになっている
- 生徒が出来事をどう捉え、どう感じたのかがわかり、内面や個性を知る手がかりになっている
- 生徒自身が、自分の気持ちの変化に敏感になってきている
- 学習への意欲が高まり、どんな場面で意欲が高まるのかもわかるようになった
これまで見えにくかった生徒の気持ちが見えるようになったことで、生徒が主体性を発揮できる環境づくりを、より一人ひとりに寄り添った形で考えられるようになってきたといいます。
数字に表れた変化
1学期に記録された2,883件の感情のうち、約9割が「快」の感情でした。意欲的に授業に向かう生徒が多い一方で、緊張・不安や疲れの記録も1割ほどあり、学校ではそこに支援の手がかりがあると考えています。
- 高エネルギー・快(意欲・集中)64.4%
- 低エネルギー・快(安心・余裕)25.0%
- 低エネルギー・不快(停滞・疲れ)5.5%
- 高エネルギー・不快(緊張・不安)5.1%
JapanEQ検査では、1学期の始め(4月)と終わり(6月)の全校平均を比べると、三つの知性すべてでスコアが上がりました。
9つの能力では、組織認識、メンタル力、リーダーシップ、対人認識などが伸びています。
※全校生徒25名の平均値です。
審査で評価された点
JAPAN EQ AWARDでは、成果の規模や完成度だけでなく、EQに向き合ってきた姿勢を重視して審査しています。上野中学校の取り組みは、とくに次の点が評価されました。
- 日常に根づかせた継続性
- 全校で、感情やEQを一過性の学びにせず、毎日記録し振り返る仕組みとして定着させている。
- 負担をかけない設計
- 年6回の検査と毎授業後の短い記録を組み合わせ、無理なく感情に気づき、言葉にし、行動へつなげる機会をつくっている。
- 先生の振り返りにも生かしていること
- 記録を生徒の評価に使うのではなく、先生自身が授業や関わり方を見直す材料にしている。
これから
2学期は対人知性、3学期は社会知性へとテーマを広げ、1年間を通じて生徒のEQを育てていきます。年度末には1年間の変化をレポートにまとめて振り返り、令和9年度(2027年度)の全国へき地教育研究大会(群馬大会)で発表する予定です。
この取り組みは、校内研修のテーマ「自主的、創造的に学び行動する生徒の育成 ~エージェンシーを発揮できる環境作りの工夫を通して~」にもつながっています。生徒一人ひとりの感情は、主体性を発揮するための大切な内面の環境である。そう捉えて、先生たち全員で研究を続けています。
学校以外でも使える、四つの視点
上野中学校の取り組みには、企業やチームでもそのまま応用できる考え方が詰まっています。
重い測定と、軽い習慣を組み合わせる
検査は年に数回、感情の記録は毎日30秒。じっくり測る機会と日々の小さな振り返りを組み合わせると、変化を追いながら続けやすくなります。企業なら、朝礼や会議の終わりの1分に置き換えられます。
結果は「評価」ではなく「自分を知る材料」に
正解・不正解はない、と最初に伝える。安心して本音で答えられる状態をつくることが、データの質も、本人の気づきも高めます。
データを、関わる側の振り返りにも使う
生徒の記録が、先生の授業改善の材料になっています。メンバーの感情の傾向は、リーダーが自分の関わり方を見直すヒントにもなります。
自分から相手、組織へと広げる
いきなりチームの課題から入らず、まず自分の感情への気づきから始め、相手の理解、組織での行動へ。1年間の流れを描いておくと、取り組みが単発で終わりません。
あなたのEQの実践を、聞かせてください
上野中学校の取り組みは、1学期を終えたばかりの、まさに進行中の実践でした。それでもグランプリに選ばれたのは、規模や完成度ではなく、EQに向き合い、日常の中で続けようとする姿勢が評価されたからです。
始めたばかりでも、小さなチームでも構いません。学校、企業、部活動、地域の活動。それぞれの場所で生まれているEQの実践を、JAPAN EQ AWARDは毎年募集しています。
次回の募集やJapanEQの導入についてのお問い合わせ:contact@eqaward.jp